世界遺産とは
1972年ユネスコ(UNESCO、国連教育科学文化機関)で世界遺産条約が結ばれました。日本は1992年に条約を批准しました。
世界遺産は「顕著な普遍的価値」をもつ文化財、景観、自然などを登録し保護しようという物です。ユネスコ憲章にもこの理念が記されています。
1950年代にエジプトでアスワンハイダムの建設が始まりました。完成すると古代エジプトの貴重な遺跡であるヌビア遺跡がダムの底に沈んでしまいます。しかし、エジプトの発展・人々の生活の安全のためには必要なダムでした。
そのような中で1960年にヌビア遺跡保存を目指す国際キャンペーンが始まります。東西冷戦下、さまざまな困難がありましたが、最終的に多くの国が手を組み、ヌビア遺跡は保存されました。
このような中で、世界遺産条約が成立しました。ここでは文化財を登録する「世界文化遺産」、自然を登録する「世界自然遺産」があります。また、両者に渡る「複合遺産」や人類の犯した愚かな行いを伝え後世の戒めとする「負の世界遺産」があります。さらに、世界遺産に登録されたものの、現在危機にさらされているものは「危機遺産リスト」に載ります。
各国の世界遺産
2022年現在、世界遺産の数は世界で1154件です。内訳は文化遺産897件、自然遺産218件、複合遺産39件です。
世界遺産の登録数が多い国は以下の通りです。
順位 | 国名 | 文化 | 自然 | 複合 | 合計 |
1 | イタリア | 53 | 5 | 0 | 58 |
2 | 中国 | 38 | 14 | 4 | 56 |
3 | ドイツ | 48 | 3 | 0 | 51 |
4 | スペイン | 43 | 4 | 2 | 49 |
4 | フランス | 42 | 6 | 1 | 49 |
6 | インド | 32 | 7 | 1 | 40 |
7 | メキシコ | 27 | 6 | 2 | 35 |
8 | イギリス | 28 | 4 | 1 | 33 |
9 | ロシア | 19 | 11 | 0 | 30 |
10 | イラン | 24 | 2 | 0 | 26 |
11 | 日本 | 20 | 5 | 0 | 25 |
世界遺産を地域別に見てみます。
地域 | 割合 | 件数 | 国数 | 一国あたり件数 |
ヨーロッパ | 44.39% | 554 | 45 | 12.3 |
アジア | 25.48% | 318 | 46 | 6.9 |
オセアニア | 2.48% | 31 | 14 | 2.2 |
北アメリカ | 9.13% | 114 | 23 | 5.0 |
南アメリカ | 6.73% | 84 | 12 | 7.0 |
アフリカ | 11.78% | 147 | 53 | 2.7 |
これを見ると、ヨーロッパは国数が多いこともありますが、世界遺産が偏在していることがわかります。一方、アフリカやオセアニアは極端に少なくなっています。各国の平均を見ても、ヨーロッパは12を超えますが、アフリカは2を超える程度です。
もちろん、ヨーロッパには長い歴史があり、多くの文化が栄えてきました。それぞれの文化を代表するものを登録すれば数は多くなります。しかし、アフリカに長い歴史がないわけでも、多くの文化がないわけでもありません。
このように考えると、世界遺産の偏在は問題があるとも言えます。
これに対してUNESCOでは、推薦枠として各国年1件という制限を加えたり、世界遺産委員会の審議数は年35件とし、審議は登録数が少ない国を優先するなどの対応をしています。
日本の世界遺産
日本は1992年に世界遺産条約を批准しました。1993年には法隆寺・姫路城・屋久島・白神山地が世界遺産に登録されました。以後、日本における世界遺産登録数は増え続け、現在25件が登録されています。
現在、世界遺産登録を目指して推薦しているものとして「佐渡の金山」が挙げられます。また、2024年以降の登録を目指しているものに、「彦根城」「飛鳥・藤原の宮都とその関連資産群」が挙げられます。特に、彦根城は姫路城と共に最初に推薦されたものです。以来30年間、推薦すらされませんでしたが、ようやく登録に向かって動き出しました。
一方、彦根城と姫路城は同じ文化を代表する、同じような建築です。これで登録されるのかという問題があります。例えば、ヨーロッパでは同じような大聖堂がたくさん登録されているように見えます。しかし、これはドイツ、これはフランスというように別の国のものです。そして、時代が違うと、これはゴシック建築、これはビザンツ建築というように様々な建築様式があります。すると、同じような大聖堂に見えても、「どこどこの国のなになに文化を代表するもの」として登録されやすくなります。これもヨーロッパで世界遺産が多くなる原因でもあります。個人的には彦根城が登録されるかは非常に注目しています。
抹消された世界遺産
世界遺産に登録されることで、注目を浴び、観光客が増えるということが大きな効果として挙げられます。もちろん、これ自体が悪いことではありません。しかし、本来の目的である「保護」を忘れてしまい、商業主義に陥ってしまったら本末転倒であると言えます。2021年に登録された「奄美・徳之島・沖縄島・西表島」や「北海道・北東北の縄文遺跡群」も、あるいは、来年以降登録を目指しているものもコロナ後の日常が帰ってくると同時に、観光客が増え、地域の経済発展に寄与することを期待しているものと思います。一方、保護と観光開発のバランスを取ることが難しいことも事実です。
今までは世界遺産の登録を認めるか話し合う世界遺産委員会は各国の持ち回りで行われていました。イベントのようになっていた側面もあるようですが、2022年はオンラインで行われました。ここでは、イギリスの「海商都市リヴァプール」が世界遺産から抹消されました。もちろん、突然抹消されたわけではなく2003年に登録後、2012年に「危機遺産リスト」に登録されていました。これは、破壊が進み、保全が難しくなった遺産が登録されるものです。リヴァプールが登録されたのは、都市開発が進み、景観などが大きく変わってしまったことが原因です。
世界遺産から抹消されたものには、アラビアオリックス保護区(オマーン)やドレスデン・エルベ渓谷(ドイツ)が挙げられます。いずれも、開発と保護のバランスが取れなかったことが原因です。
一方、保護ばかりということも問題があると言えます。例えば、自然遺産があったときに、一切の人の立ち入りを禁止したとします。もちろん、自然を保護することはできますが、人が自然を楽しみ、自然と親しむ機会が失われます。自然保護について学び、考える機会も失われてしまうでしょう。
エコツーリズムという言葉がありますが、自然と人間を完全に隔離するというのも世界遺産の理念から考えると違うと言えるのではないでしょうか。
世界遺産の保護
日本でも世界遺産の保護は大きな問題になっています。
オーバーツーリズム
まず、世界遺産に登録されることで観光客が押し寄せることがあります。宿泊施設が不足しているなど十分な受け入れ態勢が整っていない場合があります。自然遺産を中心に観光客が増えすぎて遺産が破壊されてしまう場合もあります。
また、石見銀山では駐車場の不足、付近での渋滞なども問題になりました。合掌造り集落では個人所有の敷地に観光客が無断で入り込むということも起こっています。
京都では、観光客が増えすぎてしまい、以前からの信者の方が参拝しづらくなるなどの影響もあったようです。.
このように観光客が増えすぎて景観や遺産そのもの、地域住民に負の影響があることをオーバーツーリズムと言います。
一方、世界遺産登録によって観光客が増えてもそれが一過性のものであっては観光客の受け入れ態勢を整えても意味がありません。また、平泉では観光客が増えても宿泊する人は少なく、地域への経済効果は思ったより少ないというような問題も起こっています。
もちろん、法隆寺で観光客によるものと思われる落書きが見つかるなど、観光客のモラルの問題もあります。
事故や災害
令和元年には、首里城で火災が起こりました。火災の原因は特定されていませんが、現在復興と今後の事故防止対策が進められています。
また、近年増加している自然災害の被害も少なくありません。台風などが原因で集中豪雨が起こり、崖崩れなどが発生してしまった世界遺産もあります。
多くの世界遺産で事故・災害対策の計画を策定する動きがあります。せっかく普遍的な価値のある遺産ですから、それをきちんと保護し、建設的に利用していきたいものです。
日本の世界遺産
(6)白川郷・五箇山の合掌造り集落( 、 )(平成7年記載)
(11)琉球王国のグスク及び関連遺産群( )(平成12年記載)
(12)紀伊山地の霊場と参詣道( 、 、 )(平成16年記載)
(14)石見銀山遺跡とその文化的景観( )(平成19年記載)
(16)平泉-仏国土(浄土)を表す建築・庭園及び考古学的遺跡群( )(平成23年記載)
(17)富士山-信仰の対象と芸術の源泉( 、 )(平成25年記載)
(19)明治日本の産業革命遺産 製鉄・製鋼、造船、石炭産業( 、 、 、 、 、 、 、 )(平成27年記載)
(21)「神宿る島」宗像・沖ノ島と関連遺産群( )(平成29年記載)
(22)長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産( )(平成30年記載)
(24)奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表島( 、 )(令和3年記載)
(25)北海道・北東北の縄文遺跡群( 、 、 、 )(令和3年記載)
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