奄美群島・琉球列島の登録決定
2021年7月に日本から2つの世界遺産登録が決まりました。7月26日に登録が決定したのが、「奄美群島・琉球列島」の自然遺産登録です。これは以前から審議されていましたが、生物の多様性は評価されていましたが、小さな区域や飛び地がたくさんあることから生物の多様性に関して持続可能性に疑義がだされていました。それに対して、ロードキル(自動車事故などによって野生動物が死ぬこと)や外来種の問題(マングースなど外から持ち込まれた生物によって生態系が破壊されること)、密猟や盗掘などの対策を行ってきました。このような努力の成果として世界遺産登録が実現しました。
北海道・北東北の縄文遺跡群の登録決定
翌27日に登録が決定したのが北海道・北東北の縄文遺跡群です。人間の歴史が始まったころ、人間は文字を持ちませんでした。この時代を先史時代といいます。(文字を獲得して以降は歴史時代といいます。)人間は原始的な打製石器を使用する旧石器時代を経て、複雑な打製石器や磨製石器を使う新石器時代へと進化していきます。この時代人間は農耕や牧畜を行い、定住生活を始めました。しかし、日本においては新石器時代前期である縄文時代には農耕や牧畜は始まっておらず、狩猟・最終を中心とした生活を行っていました。
ところが、北海道・北東北の縄文遺跡群の一帯では複雑な石器だけでなく世界最古の土器や漆器を使用していたのです。世界でも珍しい、農耕や牧畜のない状態で非常に豊かな定住生活を行っていたと考えられています。この豊かな生活は1万年以上にわたり続き、北海道と北東北は津軽海峡をはさんでいますが、一つの文化圏(津軽海峡文化圏)を形成していました。遺跡は平地から丘陵地、山地まで様々な地域に広がり、その場所に応じた生活を営んでいたようです。集落は当然ですが、貯蔵穴、貝塚、盛土、環状列石などが出土し、多様な精神世界を持っていたこともうかがい知ることができます。
今回北海道・北東北の縄文遺跡群から世界遺産に登録された遺跡は17もあります。そのうちもっとも有名なのは青森県の三内丸山遺跡でしょう。多くの竪穴住居がみつかり、村の規模はかなり大きなものになると思います。
高いやぐらのような建物も見つかりました。おそらくまじないやおいのりに使った施設なのではないかと思われます。
世界遺産とは
世界遺産とは、1972年にユネスコ(国連教育科学文化機関)総会で採択された世界遺産条約に基づいて登録されているものです。日本は1992年に締結し、現在の締約国は194か国にもなります。世界遺産には建造物や遺跡などの「文化遺産」、自然地域などの「自然遺産」、文化と自然の両方を兼ね備えた「複合遺産」の三種類があります。(負の遺産というのは、日本国内でのみ使われている用語で、明確な基準はありません)
各国が推薦した遺産を世界遺産に登録するかしないかは、世界遺産委員会で決定されます。この際に候補となっている遺産の調査を行う機関が、文化遺産に関してはICOMOS(国際記念物遺跡会議)、自然遺産に関してはIUCN(国際自然保護連合)です。世界遺産に登録されると、世界遺産の登録条件である「顕著な普遍的価値」があると認められたということになります。そして、各国は世界遺産を維持する努力をすることになります。しかし、戦争や開発(過度の観光地化なども含む)、環境破壊等によって維持が困難になる世界遺産もあります。そのような遺産は「危機遺産リスト」に記載され、世界遺産条約加盟国の協力を得ながら危機を取り除く努力がなされます。この際には加盟国が拠出している世界遺産基金なども使われます。
世界遺産としての顕著な普遍的価値が失われたと判断された場合は、世界遺産リストから削除されることもあります。これまでにオマーンの「アラビアオリックスの保護地区」とドイツの「ドレスデン・エルベ渓谷」が、そして2021年に「海商都市リヴァプール」が削除されています。
世界遺産登録で起こること
世界遺産に登録されると、世界中の注目を集めます。その結果観光客が増えるなどのメリットもあります。国や地方自治体が世界遺産に登録されるかどうかに注目するのはこのようなことが原因だといえます。しかし、世界遺産となったものは今までのその地域社会によって維持されてきたものです。観光客が増えたことによって地域社会が変質すると維持できなくなる可能性があります。
観光客が増えたことによって、自然を守ることができなくなったり、観光客によるいたずら書きなど遺産そのものの破壊が行われたりということが起こっています。このように観光客が増えすぎることをオーバーツーリズムといいます。また、白川郷などでは合掌造りの家屋に現在も人が住んでいるため、観光客が私有地に無許可で入り込んで住民のプライバシーが守られないなどの問題も起きています。
また、観光客が増えることによって経済的に潤いますが、それが地域住民に還元されていないという問題も起こっています。岩手県平泉町は世界遺産を抱えていますが、非常に小さな町で宿泊施設が十分とは言えません。すると、観光客は世界遺産を見に来てもすぐに別のところに行ってしまいます。このような場所を通過型観光地といいます。
観光客による遺産そのものの破壊行為などがあると、入場者数を制限するなどの対策をとるところも出てきました。自然遺産ではそもそも人が入るだけで自然が破壊されるという面があります。当然、入場者数の制限ということが行われているところもあります。しかし、地元の人にとってはどうでしょうか。今まで気軽にお参りに行けた寺社に行けなくなるなどの状況も出てきます。
以上のような状況だと、世界遺産に登録されたことによって地域の住民には変化と負担ばかりがのしかかってくることになりかねません。
これに対して日本ユネスコ協会では持続可能な観光計画のために7つのガイドラインを提唱しています。
① 観光に対処できるだけの管理能力の獲得
② 遺産地域の人々が観光業界に参加し、メリットを受け取る
③ 世界遺産周辺地域の商品を市場に出す手助けをする
④ 保護教育を通じて世界遺産に対する誇りを喚起する
⑤ 観光収益をこれまで不十分だった遺産の保存・保護費用に充てる
⑥ 他の世界遺産や保護地域での経験を共有する
⑦ 世界遺産保護について観光業界関係者の意識を高める
です。地元に大きな負担がいかないようにし、遺産そのものを保護する仕組みづくりが求められています。もちろん、国や自治体だけでなく個人も努力することが必要です。指定地域に外来種を持ち込まないこと、貴重な生物・文物を採集したり傷つけたりしないことなど考えられることはたくさんあるはずです。
(参考:富山国際大学社会学部紀要 第5巻)
世界遺産について考える
2019年現在の世界遺産登録数は以下のグラフのようになっています。(文化庁HPより)これを見てわかる通り、世界遺産の登録数はヨーロッパ・北米とアジア太平洋諸国に偏っています。アフリカは面積が大きい割に少ないといえます。また、ヨーロッパ・北米とアジア・太平洋諸国と比べてアフリカ諸国は自然遺産の割合が高いという特徴もあります。文化に優劣はないはずですから、文化遺産の分布が偏るというのは本来おかしいはずです。
つまり、世界遺産というものが本当にその役割を果たしているのか、政治や経済によって左右されているとすれば、考え直さなければならないこともあるでしょう。
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日本の世界遺産
(6)白川郷・五箇山の合掌造り集落( 、 )(平成7年記載)
(11)琉球王国のグスク及び関連遺産群( )(平成12年記載)
(12)紀伊山地の霊場と参詣道( 、 、 )(平成16年記載)
(14)石見銀山遺跡とその文化的景観( )(平成19年記載)
(16)平泉-仏国土(浄土)を表す建築・庭園及び考古学的遺跡群( )(平成23年記載)
(17)富士山-信仰の対象と芸術の源泉( 、 )(平成25年記載)
(19)明治日本の産業革命遺産 製鉄・製鋼、造船、石炭産業( 、 、 、 、 、 、 、 )(平成27年記載)
(21)「神宿る島」宗像・沖ノ島と関連遺産群( )(平成29年記載)
(22)長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産( )(平成30年記載)
(24)奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表島( 、 )(令和3年記載)
(25)北海道・北東北の縄文遺跡群( 、 、 、 )(令和3年記載)
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