不足する電気

大規模停電の発生

2022年3月16日23時36分ごろ、福島県沖を震源とするマグニチュード7.6の地震が発生しました。地震と同時に東京電力管内の多くの火力発電所が安全のため停止しました。そのせいで、電気の需要と供給のバランスが崩れてしまいました。ここでUFR(周波数低下リレー)装置が発動し、自動的に送電を停止して安全を確保しました。これによって、大規模な停電が発生しました。ピーク時の停電範囲は東北電力管内で15万戸、東京電力管内で209万戸にのぼりました。停電は約3時間後に収束しています。

2018年9月に北海道胆振東部地震では需給バランスが崩れたままになってしまいました。その結果、ブラックアウトが発生してしまいます。これは、管内全てが停電してしまう事故です。さまざまな機器の安全を確認しなければならないので復旧には時間がかかります。北海道の場合50時間かかり、二日間以上にわたって電気がない状態が続きました。

UFRが作動した場合、インフラや公共施設への給電は持続するため、最低限の社会的機能は維持されます。そこがブラックアウトとは違う点です。2021年2月の地震でもUFRが発動していました。その時は復旧に12時間以上かかっていますから、復旧にかかる時間は大幅に短くなっています。電力会社の技術力も上がっているということでしょう。

東京電力パワーグリッド HPより

電力不足

3月16日の地震により計画外の発電所停止が起こりました。3月18日には電力需要が大きくなるため、揚水発電などを準備しましたが、需要が最大になる17〜18時を過ぎても想定外に需要が落ちませんでした。揚水発電などは使ってしまったため、電力供給量に余裕がなく、節電要請(電力ひっ迫警報)が出されました。

3月22日には真冬並みの寒さに加え、天候が悪く太陽光発電の発電量が少なくなってしまいました。また、地震の影響が残っており一部の発電所で停止も続いていました。それもあって、東北地方からの電気の送電量も少ないままで、東京電力管内で電力不足が現実のものになりました。

もちろん、東京電力もさまざまな対応をしました。自家発電の発電量を増やしてもらったり、大口の需要家(大規模工場など)に節電を要請しています。また、他の地域からの送電量を多くしてもらってもいます。それでも電力不足の恐れが残ったため、節電要請を再びすることになりました。

実際には節電要請が効果を発揮し、15時以降電力需要は急激に減少しました。しかし、3月22日以降も10年に1度程度の寒さがきた場合、電力が足りなくなることが予想される状態が続きました。

電力不足というのは、電力の余裕がどのくらいあるかで決まります。どのくらいの余裕があるかを「予備率」と言いますが、予備率が3%を切る状態を電力不足と言います。そして、その状態が続いてしまうことが予想されているのです。

夏になっても電力不足の恐れは解消されませんでした。2022年の夏も猛暑だった上に、新型コロナウイルス感染症の拡大以降の「新しい生活様式」の一環でテレワークが普及しました。テレワークの普及によって在宅で仕事をする人が増えたため、エアコンの使用が増え、消費電力が増えました。夏場でも15時以降になると太陽光発電の発電量が減少するため、15時から19時頃に電力がひっ迫することが予想されました。

2022年の夏は乗り切ることができましたが、冬になると再び電力不足の恐れが出てきました。この冬の予備率は1.5%程度しかないと言われています。

2022年の冬、政府は「節電プログラム」を開始しました。節電プログラムに参加した家庭・事業者は補助金がもらえます。また、節電量によってポイントがもらえるプログラムも開始し、節電意識を広めようとしています。

いずれにしろ、電気は国の産業・経済を回し、人々の生活を成立させるために重要なものです。今後も需要・供給両面から電気を安定して使えるようにする政策が必要になっています。

日本の原子力発電政策

2011年の東日本大震災の際、福島第一原子力発電所で大きな事故が起こりました。これによって、原子力発電所の安全性に対して厳しい見方が大きくなりました。民主党政権は2030年代に原子力発電をゼロにすることを公約としましたが、その後自民党が与党になるとともに原子力発電政策は変更されてきました。

一時日本の原子力発電所は全てが止まりました。かつては日本の発電の約30%が原子力発電であったことを考えると大きな変化です。しかし、原子力発電で賄っていた分の電力をどのように発電するのかという問題は残ります。これが電力不足の一つの原因ではあるでしょう。

原子力発電所は少しずつ稼働してきました。現在では5原子力発電所で7基の原子炉が稼働しています。一方で、稼働するには今までより高いレベルの安全対策が必要となりました。それには数千億円規模の費用がかかるため、再稼働を諦め廃炉にする原子炉も出てきました。

そのような中で政府は停止している原子炉の運転期間を延長し、新たな安全機能を備えた次世代原子炉の開発を目指すこととしました。つまり、今後も日本は脱原発を目指すのではなく、原子力発電との共存を目指すことになったということです。

外国の原子力政策

フランスは伝統的に原子力発電の割合が非常に高いことで有名です。発電の約7割が原子力発電です。

一方、ドイツは福島の事故を受けて国民投票が行われ、2023年までに原子力発電をゼロにするということが決まりました。2022年末までに全ての原子力発電を停止する予定でしたが、ロシアによるウクライナ紛争が起こると、ロシアからの天然ガスの輸入に支障が出るようになりました。ロシアからパイプラインを使った輸入が停止されるなど、エネルギーの安定供給に不安が生じたのです。

そこで、ドイツ政府は原子力発電所の完全停止を2023年4月まで延長することとしました。

2022年末現在、ドイツの発電量に占める原子力発電の割合は6%程度です。従って、原子力発電が停止しても大きな混乱はないと見られています。また、ドイツでは再生可能エネルギーの割合がどんどん高くなっており、現在太陽光と風力で50%近くの需要を賄っています。

当面は石炭火力を増やしつつ、天然ガスと原油の安定供給に努める。その上で2030年代には再生可能エネルギーの割合を80%にまで高め、外国にエネルギーを依存しない体制を作ることがドイツの目標となっています。

世界で再生可能エネルギーの普及が加速しています。ウクライナ紛争によるエネルギー問題はさまざまなところに影響を与えている一つの例と言えます。

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