ロシアによるウクライナ侵攻

2022年2月、ロシアがウクライナに侵攻しました。ウクライナのネオナチ勢力を倒し、ウクライナを非ナチ化するということをロシアのプーチン大統領は標榜しています。一方、ウクライナのゼレンスキー大統領は徹底抗戦をしており、紛争の終結の見通しは立っていません。

ロシアとNATO

冷戦(資本主義諸国と社会主義諸国の実際に戦果を交えない対立。1991年にアメリカのブッシュ大統領とソビエト連邦のゴルバチョフ書記長が会談を行い、冷戦の終結が宣言された。)の時代、東西両勢力は激しく対立を繰り広げました。それぞれ軍事同盟をつくりました。ヨーロッパを中心とした地域で西側(アメリカを中心とする資本主義諸国)が作った同盟をNATO(北大西洋条約機構)、東側(ソ連を中心とする社会主義国)が作った同盟をワルシャワ条約機構と言います。冷戦終結後ワルシャワ条約機構はなくなってしまいましたが、NATOは現在でも存続しています。

ソ連が崩壊した後、ソ連は15の国に分裂しました。分裂したうち最大の国家がロシア連邦です。ロシア連邦は初代大統領エリツィンの後を受けて2000年にプーチンが大統領となりました。

NATOは西ヨーロッパ諸国を中心とした同盟でしたが、冷戦終結後東ヨーロッパにも拡大していきました。それをロシアは非常に嫌がりました。

2014年にウクライナで政権交代が起こりました。ヤヌコビッチ大統領が追放され、親欧米派のトゥルチノフが大統領になると、ロシアはウクライナ領であったクリミア半島を併合してしまいます。ここから、ウクライナはクリミア奪還を目指し軍備増強をし、ロシアとの対立を深めていきます。

2021年には、ロシアはウクライナとジョージアがNATO加盟をしない、つまりこれ以上NATOが東方に拡大しないという確約を求めます。2021年12月には首脳会談も行われますが、2022年2月にロシアはウクライナに侵攻しました。

紛争の状況

当初、ロシアが短期間で勝利を収めるという予測もありました。しかし、ロシアによるキーウ(キエフ)侵攻は一旦失敗に終わり、ロシアは東部と南部を中心としてウクライナに侵攻するという作戦に切り替えました。

欧米を中心とする国際社会はウクライナ支援を行いました。ここでは、武器も支援され、ウクライナ軍の訓練も欧米諸国によって行われているようです。アメリカの民間企業スペースXはスターリンクという人工衛星を使ったインターネット接続をウクライナに無償で支援しています。これによって通信が行われる以外に、ドローンによる攻撃などにも活用することができます。また、軍事的なものも含めた情報も支援され、さらにロシアに対する経済制裁も行われています。

ロシアは2014年に領有を宣言したクリミアに続いて、東部のドネツク州とルハンスク州の独立を2月に承認しました。また、9月にはウクライナ東部の4州の併合を宣言しています。このように、ロシアは一方的にウクライナの領土をロシア領であると宣言し、既成事実化しようとしています。

ロシア軍の東部・南部での進撃は順調に見えましたが、だんだんと勢いは衰え、9月以降はウクライナが反撃に成功する場面も増えました。場所によってはロシアに奪われた土地を奪還しているところもあるようです。

しかし、両軍とも決定的な勝利を収めることはできず、紛争は長期化してしまっているのが現在の状況です。

物価高騰

ウクライナ紛争の影響は市民の生活にも及んでいます。

燃料価格の高騰

ロシアはエネルギー産出国でもあります。輸出割合は世界の原油の11%、天然ガスの25%、石炭の18%に及びます。その国が紛争を起こしただけでも大きな影響がありますが、今回のロシアは経済制裁の対象となっています。もちろん、ロシアはそれに反発し、資源を武器にして経済制裁を緩和しようという動きも見られます。例えば、ロシアは「非友好国」とみなした国に対する天然ガスの輸出についてロシア通貨ルーブルでの支払いを要求しています。

また、ドイツは天然ガスの供給のうち55%をロシアに頼っていました。ノルドストリーム1などのパイプラインで天然ガスが運ばれてきましたが、ロシアは徐々に天然ガスの供給を減らし、8月にはパイプラインで送る天然ガスをゼロにしました。下のグラフでわかる通り、ドイツの天然ガスの供給はロシアが減り、代わりにオランダやノルウェーが急増しています。

ヨーロッパは天然ガスの40%、原油の30%をロシアからの輸入に頼っています。日本はロシアからの輸入割合はそこまで高くないものの、原油の輸入については90%以上を中東に依存しており、ヨーロッパの状況は対岸の火事ではありません。

1973年に起こった石油危機では第4次中東戦争の勃発によって原油価格が大幅に上昇しました。原油の売惜しみ・買い占めが起こり、世界経済は大混乱に陥りました。2022年もロシアによるウクライナ侵攻が始まると原油価格・天然ガス価格は上昇しました。その後若干価格は下落したとはいえ、まだまだエネルギー価格は非常に高い水準にあります。今後の紛争の推移によってはまだまだ上昇する可能性もあるでしょう。

エネルギー価格の上昇を受けて、世界各国では物価が上昇しています。まず、市民生活に大きな影響を与えたのは電気代の上昇です。例えば、ドイツでは平均的な家庭の電気代は日本円にして月3万円を超えると言われています。また、イギリスでは来年には平均的な過程で電気代とガス代を合わせて年100万円に到達すると言われています。日本でもヨーロッパ諸国ほどではありませんが電気代が高騰しています。

紛争が集結すれば燃料価格が落ち着くのかはわかりませんが、紛争が続く限り価格は高い状態が続く、あるいはこれ以上高くなるのは間違いないと思われます。市民の生活に直結する問題なので、注目する必要がある問題です。

食料価格の高騰

世界の食料価格が上昇を始めたのは2020年半ばのことでした。新型コロナウイルス感染拡大が続き、サプライチェーン(製品の原材料の調達・生産・販売までの一連の流れ)がうまく機能しなくなりました。例えば、他国に人が入国できないということは貿易がストップしてしまうということにつながります。こうして、食料品の流通がうまくいかなくなることで食料品そのものが不足し、価格上昇につながりました。これは、食料品そのものだけでなく、種や農業機械、肥料なども流通に支障が生じ、品不足になってしまいました。こうして、新型コロナウイルス禍の中、食料品価格の上昇が続いたのです。また、自然災害もこれに追い討ちをかけました。2021年にはブラジルで干ばつが起きました。また、2022年の中国の小麦は史上最悪と言って良いほどの不作でした。

そして、2022年にはウクライナ紛争が始まりました。上記のエネルギー価格の上昇が農産物価格に影響を与えたことは間違いありません。さらにウクライナは農業が非常に盛んな国です。もちろんロシアも国土が広いだけあって農作物の生産量では上位にくるものがたくさんあります。トウモロコシの生産量ではウクライナは世界第4位です。また、ロシアとウクライナを合わせると小麦と大麦を合わせた生産量では世界の3分の1を占めます。さらに、ひまわり油の生産量では世界の3分の2を占めています。地理の授業ではウクライナに広がる黒土を「チェルノーゼム」と習います。そこでは小麦の生産が非常に盛んで、ヨーロッパにおける穀倉地帯の一つです。つまり、今紛争が起こっているところは世界の食料を生産している地域の一つということです。特にウクライナの港湾や農村、交通路が打撃を受けたことにより紛争が集結してもすぐに元通りに食料を生産できるわけではありません。つまり、最低でも数年間は今の状態が続くということです。

その二つの国が紛争状態になり、ロシアには経済制裁が課せられたのですから、食料価格が上昇するのは火を見るより明らかでしょう。

食料価格上昇はどのような影響を与えるのでしょうか。先進国でも市民の生活に大きな影響を与えます。エネルギー価格と食料価格の上昇によって生活は苦しくなります。また、企業にとっても原料価格が上昇した分を全て価格に転嫁できるわけではないので利益が減ってしまいます。

しかし、それ以上に苦しいのは発展途上国の人々です。エンゲル係数という数字があります。単純に説明すると支出に占める食費の割合です。一般的にエンゲル係数が低いと豊かな生活をしていると言われます。発展途上国の収入が少ない人は生活に余裕がなく、支出の多くを食費が占めています。つまりエンゲル係数が高いのです。

そのような人々にとって、食料品価格の上昇は死活問題です。食糧危機対策グローバルネットワークによると、食糧危機に直面している国として、アフガニスタン・ハイチ・エチオピア・ソマリア・南スーダン・シリア・イエメンなどが挙げられています。

ロシアの言論統制

ロシアでは厳しい言論統制が敷かれているようです。プーチン大統領はこの紛争を「特別軍事作戦」と呼んでいます。もちろん、ロシア国内にも戦争を嫌がる人はいます。また、戦争であるということになると、兵士や物資なども総動員体制となり、国民の自由も大きく制限されます。そこで、プーチン大統領はあくまで戦争ではない、特別軍事作戦であるとしているのでしょう。

そこで、ロシア国内では「戦争」と呼んだ人を罰しているようです。報道機関も自由が制限され、ロシア国民は政府の流した情報しか接することができません。ロシア国内にウクライナ侵攻に反対する人がいるようですが、それも取り締まりが行われ、時には罰を与えられているようです。

一方、インターネットが発達した現代では情報を完全に遮断することは非常に難しいものです。ロシアでもテレグラムというSNSがあります。このSNSはウクライナの人々も使っています。ウクライナのゼレンスキー大統領が投稿し、ウクライナ市民が被害の状況を投稿し、一方でロシア政府が投稿するということが行われています。スマートフォンが普及した現在では戦況をリアルタイムで簡単に発信することができます。それは、市民でも兵士でも可能なことです。

ウクライナ紛争はスマートフォンが本格的に普及した世界史上初の戦争であるとも言えます。これが情報という点で大きな影響を与えているでしょう。

9月にロシアが30万人の兵士を新たに動員すると発表した直後にロシアでは動員から逃れようという動きが見られました。多くの市民が海外へ逃れようとするなど混乱が生じました。このような動きを見ても、ロシアは完全に言論を統制しきれていないのでしょう。

もちろん、SNSにはフェイクニュース(偽のニュース。意図的に流されることもある)なども存在します。ウクライナ側の発表についても、やはりウクライナに都合のいい情報である可能性もあります。我々も情報に接するときにさまざまな点に注意する必要があります。

さまざまな兵器

ドローン

ドローンとは小型の無線操作が可能な航空機のことです。近年は手軽に購入することができるようになったことで愛好者も増えています。日本では、カメラを積んでいることでプライバシーの問題や、安全性の問題が発生しているものもあります。しかし、さまざまな調査などで大きな力を発揮しているのも事実です。

ウクライナ紛争はドローンが本格的に使われた初めての戦争であるとも言えます。ドローンにカメラを積み、遠隔操作で偵察を行い、相手を攻撃します。ドローンは小型であるため攻撃を受けづらく、さらに安価であるため撃墜されても損害は少なくて済みます。

もちろん、大型ミサイルなどに比べると威力は小さいですが、大量に使用され、大きな被害をもたらしています。

核兵器

NATO諸国のうち、アメリカ、イギリス、フランスは核保有国です。また、ロシアも核保有国です。ロシアはウクライナ戦争中何度か核兵器の使用条件について言及しました。これが核兵器による脅しとなっています。

ウクライナ戦争の一つの影響として、核兵器による脅しがかなり有効であることが再確認されたことが挙げられるでしょう。一方、核兵器を使用するということは被害・影響ともに想像を絶するものがあります。当然、ロシアが核兵器を使用した場合、NATO諸国、そしてそれ以外の国々も強い対処をすると思われます。

また、ザポリージャやチェルノービリの原子力発電所付近で戦闘行為が行われたり、ロシア軍が原子力発電所施設を「盾」に使っているという話もあります。

福島第一原子力発電所の事故以来、原子力発電に対する不信感が増しました。同時にエネルギー問題・電力不足から原子力発電所に期待する意見も大きくなっています。今後、核・原子力技術とどのように向き合っていくのかがとても大切な問題だと言えます。

難民の多い国

政治的・経済的な理由、あるいは戦争などで自国に住むことができなくなった人々を難民と言います。ウクライナ紛争では、多くのウクライナの人々が戦火を逃れ外国に逃げ出しています。彼らも難民といえるでしょう。全てが難民というわけではないでしょうが、2022年にウクライナから出国した人は1600万人に昇るとも言われています。また、ロシアで言論弾圧にあい逃げ出した人も少数ですがいるようです。彼らも難民と認定されている場合があります。

冷戦終結後も世界では紛争が絶えません。民族・宗教をめぐる対立は激化したようにさえみえます。その結果多くの難民が発生しています。国連にはUNHCR(国連難民高等弁務官事務所)があり、難民の支援をしています。しかし、世界にはまだ多くの難民が支援を待っているのが現状です。

シリア6848900
ベネズエラ4605600
アフガニスタン2712900
南スーダン2362800
ミャンマー1177000
コンゴ民主共和国908400
2021年 難民発生の多かった国

難民の発生の多かった国は上記の通りです。

シリア

2011年に中東で民主化運動が起こりました。これを「アラブの春」と言います。その中の一つがシリアにおける民主化運動です。シリアのアサド政権はロシアなどの力を借りながら民主化運動を弾圧しました。こうしてシリアは内戦状態となりました。こうして多くの難民が発生しました。欧米諸国はシリアに対して経済制裁を加えました。そのためシリア国民の生活は一層苦しくなり海外に逃げ出す人、つまり、難民がさらに増加しています。現在、シリアは最も難民発生数の多い国です。

ベネズエラ

ベネズエラは豊かな自然があり、原油の確認埋蔵量が世界1位を誇る資源大国でもあります。しかし、2019年にマドゥーロ大統領とグアイド暫定大統領が並び立ち、政治的な対立が始まります。この対立は激化し、両者の間には暴力的な衝突も発生しました。当然政治は混乱します。年120万%という激しいインフレが発生しました。物資は不足し、市民は食料や薬を買うこともできなくなってしまいます。

このような中で多くのベネズエラ人が外国に逃げていったのです。

アフガニスタン

アフガニスタンでは1996年ごろからタリバンというイスラーム原理主義のグループが政権を掌握していました。ここでは女子への教育が禁止されるなどイスラームの教えに基づいた政治が行われていました。2001年に発生した同時多発テロにオサマ=ビン=ラディンという人物か関与したとされ、その人物をタリバンが匿っていました。その結果、アフガニスタンはアメリカの攻撃を受けます。タリバン政権は崩壊し、アフガニスタン政府が樹立されます。

その後、アメリカ軍が進駐しアフガニスタンの新たな政治が始まります。その中でタリバンは少しずつ復活していました。2021年にアメリカ軍がアフガニスタン駐留を終え、撤退するとタリバン政権が復活しました。ここでは、イスラームの教えに基づいた政治が復活しさまざまな自由が制限されることになりました。

アフガニスタンはこのように多くの紛争が発生してしまい、政治も不安定なので難民が増加してしまいました。

南スーダン

元々はスーダンという国の一部でした。スーダンは北部にアラブ系イスラーム教徒が多く、南部はアフリカ系キリスト教徒が多いという国でした。ここから、人種・宗教による対立が長く続きました。結局、2011年に南スーダンが分離・独立を果たしました。したがって、南スーダンというのは21世紀に誕生した新しい国家なのです。

しかし、独立後の南スーダンの政治は安定しませんでした。独立前からの指導者だった大統領は独裁者となり、部族対立も激しくなっていきます。政治家同士の対立も激しくなり、内戦状態になってしまいます。国内での生活が困難になった人々は難民となりました。南スーダンの場合、国内難民と呼ばれる南スーダン国内にいる難民が多いのも特色です。

2020年に和平協定が結ばれ、暫定政府が成立しました。現在難民の数は減少傾向にあります。

ミャンマー

ミャンマーはかつてイギリスの植民地でした。第二次世界大戦では日本の侵攻を受け、アウン=サン将軍が中心となり、日本に抵抗しました。戦後1948年にはイギリスからの独立を達成します。

ミャンマーにはロヒンギャと呼ばれる人々がいます。元々はベンガル地方に住むイスラーム教徒です。ミャンマーの多くは仏教徒ですから、ロヒンギャの人々は少数派です。独立当初は大きな問題はなかったのですが、1962年に軍事クーデターが起こることによって状況は一変します。軍事政権は中央集権的な社会主義国家づくりを目指し、ロヒンギャの人々を差別し始めたのです。ロヒンギャの人々を国民とは認めず、強制労働をさせたりもしました。結果、ロヒンギャの人々は外国に逃げ出し、難民となったのです。

ミャンマーの民主運動家で有名な人物としてアウン=サン=スー=チー氏がいます。アウン=サン将軍の娘で、軍政に抵抗しノーベル平和賞も受賞しました。スー=チー氏は軍事政権と対立し民主化を目指しますが、そのような中でロヒンギャの人々はスー=チー氏を支持しました。こうして、軍事政権のロヒンギャに対する弾圧はますますひどくなっていきます。

一時、民主化運動が功を奏し、選挙も行われて民主化が一部実現しました。しかし、現在のミャンマーは再び軍部による独裁政治に戻ってしまいました。

ロヒンギャに対する弾圧は現在でも続き、難民の数も膨大なものになっています。

難民受け入れ国

トルコ3759800
コロンビア1843900
ウガンダ1529900
パキスタン1491100
ドイツ1255700
2021年 難民の受け入れが多かった国

難民の受け入れが多かった国は上の表のようになっています。

難民を受け入れることはとても大変なことです。多くの場合、財産も何も持たずに逃げてきます。場合によっては受け入れ国の言葉が話せないということもあるでしょう。保護して、その国の中で生活していけるようにするには多くの援助が必要です。財政的にも大変でしょう。

例えば、ミャンマーの隣国バングラデシュは入国してきたロヒンギャを不法入国者としてミャンマーに送還しました。人道的にバングラデシュのやっていることはひどいことかもしれませんが、多くのロヒンギャが逃れてきた場合、バングラデシュが財政などさまざまな面で負担できないということもあり得ます。

したがって、UNHCRなどの国際機関の手助けも必要ですし、NGO(非政府組織)の活動も必要とされています。また、難民が発生する国は治安状況が良くないことも少なくありません。また、独裁国家などでは、外国の介入を嫌がる場合もあります。

アフガニスタンで支援活動をしていた日本人医師・中村哲氏が2019年12月に殺害されるという事件がありました。難民の保護は難しい問題をたくさん含んでいます。

日本は難民の受け入れ数が非常に少ないと言われています。今後、日本はどのような方針をとるのか注目されます。

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